WEB完全版

マサラの車窓から

混ざり合うことで生まれる可能性

マサラ急行 VOL.001 掲載分の、紙面に載りきらなかった完全版です。

さまざまな分野で活躍するゲストを迎え、スパイスを“窓”に、その世界の奥深さや共通点を探るコーナー「マサラの車窓から」。第一回目は、アナン店主・バラッツ自身に話を聞きました。

取材バラッツさんは、幼少期から料理に興味を持っていたのでしょうか?
バラッツ料理に興味を持ち始めたのは大学生のころです。スペイン留学中に、市販のカレー粉をまぶして焼いた豚肉を友人に振る舞ったところ、とても好評だったのを覚えています。もう一つの原体験は、中学生のころに「田町のばーちゃん」という、名前も知らない方がたまに家に来て、僕がチャイを淹れていたことですね。
取材豚肉のカレー炒めと田町のばーちゃんのおかげで、今日のアナン邸があるんですね(笑)
バラッツそうですね(笑)。それに加えて、高校時代をインド、大学時代をスイスとスペインで過ごす中で、さまざまな香りに触れられた経験が、スパイスを扱ううえでの土台になっています。スパイスは味ではなく、香りの世界。単体にはほとんど味がないのに、調理することで風味が引き出されるのは、私たちが「香り」を味わっているからなんです。オリジナルブレンドを依頼されたときは、相手の要望や雰囲気をイメージしながら、これまでの「香りの記憶」を頼りにスパイスを組み立てています。
取材味ではなく香りの世界、興味深いです。バラッツさんにとって、そんなスパイスの魅力とはなんでしょうか?
バラッツ名脇役であるところでしょうか。単体では食べられないけれど、何かとブレンドすることで、新しい可能性を生み出せる。アイデアの組み合わせ次第で、世界が無限に広がっていくところがスパイスの面白さだと思います。過去には、三崎のマグロ屋さんからの依頼を受けてマグロに合うブレンドや、ジビエやピーナッツに合わせたスパイス、瀬戸内のバーベキュー組合に向けて「屋台風スパイス」も作りました。自分とは全く違う感覚で発想することで、思いもよらない答えが出るのが面白いです。

混ざり合うことで生まれる可能性

取材アナン邸という空間や料理教室の人々とのコラボなど、スパイスにとどまらないバラッツさんの活動に通じますね。今はどんなことに興味がありますか?
バラッツ日本のスパイス文化をインドに逆輸入してみたいですね。今、インド西岸の都市・ムンバイにキッチンラボをつくっていて、そこでは出汁をはじめとする日本独自のスパイスを紹介したいと考えています。また広島の尾道でもラボを運営していて、鎌倉・尾道・ムンバイの三都市がつながり、スパイスを起点に新たな食文化の交流が生まれることで、面白い化学反応につながるのではないかと。ムンバイはその歴史からも「インドの玄関口」として知られていて、アジアだけでなく、欧州や中東、アフリカとのハブでもあるんです。さまざまな人や食材が集まり得る、とても面白い場所なんです。
取材なぜラボの中心にキッチンを置いているのでしょうか?
バラッツ「世界中のほとんどの問題は、キッチンに立てば解決する」という祖父の教えがあるんですね。たとえば、人間は野菜だけがあれば生きていけませんが、野菜だけを育てていると土壌が痩せてしまう。そこで、土も肥やす豆を育てる必要があり、その結果、インドではドーサやダールといった豆料理が多くなっていきます。祖父は「政治家がキッチンに立てば、世界は平和になる」とよく話していました。実際にキッチンに立つと、世界が見えてきますからね。
編集・発行 Internet of Spice/編集長 Takaya Tokuyama
デザイン Naomi Hike/題字 Sugio Yamazaki