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マサラの車窓から
香りと旨み、二人の名脇役が出会う場所
アナン店主・バラッツが、さまざまな分野で活躍するゲストを迎え、その世界の奥深さや共通点を探るコーナー「マサラの車窓から」。第2回は、愛知県豊田市大多賀町を拠点に発酵調味料「しろたまり」を製造する、日東醸造の蛯川泰輔さんに話を聞きました。
バラッツまずは「しろたまり」について、簡単にご説明いただけますか?
蛯川しろたまりは、白醤油から派生した弊社独自の発酵調味料です。白醤油はもともと、真っ黒なたまり醤油で知られる愛知県で、「料理に色をつけない醤油」として和食の板前さんを中心に広まりました。その白醤油をさらに磨き上げ、最高の白醤油を目指して開発されたのがしろたまりです。醤油が小麦9割・大豆1割で作られているのに対し、しろたまりは小麦のみを使い、麹の量も白醤油の約2倍にすることで、塩気を抑えながら甘み・旨味を高めることに成功しました。
バラッツしろたまりの魅力は、やはりその透明感ですよね。通常の黒い醤油は味や香りが強く、スパイスやハーブと一緒に使うと、存在感が前に出すぎてしまうことがあります。その点、しろたまりは素材同士をつなぎ、旨みを引き立ててくれる。まさに料理における名脇役だと感じます。
蛯川そのことから、フレンチやイタリアンでも重宝され、海外では「ヴィーガンナンプラー」として販売されたりもしています。ただ、あくまで引き立て役なので、料理の前に出るような使い方にはあまり向いていません。その点はスパイスとは少し違うのかなと思います。
バラッツスパイスも名脇役ではありますが、しろたまりが料理の真ん中に旨みを加えるのに対し、スパイスは主に一日目の香りの強さや辛さを演出する点が異なります。日本では旨味の強い二日目のカレーが好まれますが、インドだと香りが命なので、カレーは作りたてが最も美味しいとされています。そう考えると、スパイスもしろたまりも名脇役だけれど、スパイスは料理をドレスアップする二枚目、しろたまりはじわじわ旨みをもたらす演技派、といったところ。その交差点を作れたら、面白い化学反応が起きそうですよね。
香りと旨み、二人の名脇役が出会う場所
蛯川作り手としても、しろたまりと掛け合わせることで生まれる可能性は多いと思います。実はしろたまりには、味の浸透を促進する酵素が含まれていて、それは製造に使用する木桶に由来するのではないかと言われています。現在バラッツさんと共同開発中のしろたまりピクルスも、その酵素を活かすためにピクルス液を加熱しないレシピを採用しました。そうした工夫をしながら、いろいろな料理に溶け込み、和と世界の橋渡し役として広がったらいいなと感じています。
バラッツ以前、ある著名な料理人が書いた本に「日本食は醤油が生まれたことで残念になった」という一文がありました。それは醤油が美味しくないということではなく、むしろ醤油を入れると料理が完成してしまうため、他の可能性を模索できなくなったことが残念だ、という意味だったんです。今では世界中どこへ行っても「カレー味の何か」があり、逆にない場所を探す方が難しいくらいですよね。それは、インドから始まったスパイス文化が、かつてのイギリスによってカレー粉となり、それが世界中に広まる中で、現地ごとに独自の解釈がされていった結果とも言えます。もし、しろたまりが「どんな形にも変化できる新しい醤油」だとしたら、カレー粉のように世界各地で独自に解釈されていくことで、完結していた醤油の世界に、新たな未来を提示してくれるのかもしれませんね。

