スパイス図鑑

チリ(唐辛子)とは|カレーの辛味を決めるスパイスの正体と使い方

カレーの辛味を一手に担う唐辛子。新大陸からわずか五百年で世界へ広がった香辛料の歴史、品種ごとの辛さと色の違い、辛味を立てつつ角を取る使い方の原則までを図鑑としてまとめます。

チリ(唐辛子)とは|カレーの辛味を決めるスパイスの正体と使い方

カシミリチリ(パウダー) を見る →

チリ(唐辛子)は、スパイスカレーの辛味を決めるナス科の果実のスパイスです。クミンやコリアンダーが香りを立て、ターメリックが色とまとまりを敷き、塩が味を決めるなかで、唐辛子が受け持つのは辛味と、料理を引き締める刺激。皿にビシッと一本の芯を通す係です。品種によっては鮮やかな赤い色も同時に持ち込みますが、本領はやはり「辛さ」。これがあるかないかで、同じ配合でも料理の表情はがらりと変わります。

このページは図鑑として、唐辛子の歴史・産地・辛味のしくみ・使い方の原則をまとめます。配合のなかで色・香り・味・辛味の四つの役割をどう組むかはマサラの設計図、最初に揃える4種としての位置づけは最初に揃える4種で扱っているので、行き来しながら読んでください。

チリ(唐辛子)とは — 辛味を担い、料理を引き締める係

  • 辛味……料理にビシッとした刺激を与える主役の役割。カプサイシンという辛味成分によるもので、ごく少量でもはっきり辛さが立つ。
  • ……カシミリチリのように、辛さは穏やかでも鮮やかな赤い色を出す品種がある。色づけと辛味づけを別の唐辛子で分担させることもできる。
  • 角の出方……唐辛子単体は辛さが尖りやすいが、ほかのスパイスとブレンドすると角が取れてまろやかにまとまる。「効かせる」ほど量の調整がものを言うスパイス。

ひと口に唐辛子といっても、辛さの強さも色も品種によって大きく違います。穏やかで色出しに使うものから、世界有数の辛さを誇るものまで幅があり、同じ「チリ」という名前のなかに別人のような個性が同居しているのが、このスパイスの面白さです。

歴史 — 新大陸から、わずか五百年で世界を真っ赤に

唐辛子は、いまでこそインド料理に欠かせない存在ですが、もとは新大陸生まれのスパイスです。栽培の歴史は中南米で六千年ほどさかのぼると言われる一方、世界に広がったのはここ五百年ほどのこと。コロンブスが新大陸から持ち帰ったことを起点に、わずか五十年弱で世界中へ普及したと伝えられます。胡椒を求めた航海が、思いがけず別の「辛さ」を世界へ運んだわけです。

インドへはポルトガル人が持ち込み、おおよそ五百年。それ以前のインドでは、辛味は胡椒やロングペッパー(長胡椒)が担っていました。唐辛子は栽培が容易で辛味も強く、長胡椒と似た役割を果たせたことから、gowan mirchi などと呼ばれて瞬く間に全土へ広がり、料理を一変させたと言われます。ポルトガル人が新大陸の唐辛子を加えて生まれたヴィンダルーのように、伝来そのものが新しい料理を生んだ例もあります。インド料理がどのように組み上がってきたかはマサラの設計図もあわせてどうぞ。

東へ西へと旅した唐辛子は、土地ごとに違う根づき方をしました。オスマン帝国を経てハンガリーへ渡ったものは「赤いトルコ胡椒」と呼ばれ、のちにパプリカとして独自の食文化を育てます。朝鮮半島では暮らしの中心に深く根を張った一方、日本では同じようには根づかなかった——同じスパイスが、土地によってこれほど違う運命をたどった例もそうはありません。

品種と産地 — 辛さで選ぶか、色で選ぶか

唐辛子は品種の幅が広く、目的に応じて選び分けるのが基本です。インド料理でよく知られるところでは、辛さは穏やかで鮮やかな赤い色を出すカシミリ、世界有数の辛さを誇るブートジョロキア、小粒のグンドゥ、辛味の強いテジャ、ラジャスタンのマタニアなどが挙げられます。色づけが主役のものと、辛さが主役のもの——同じ唐辛子でも、果たす役割はずいぶん違います。

ラジャスタンには、マタニアチリの真っ赤な色で仕立てたラールマースという料理が王を喜ばせた、という逸話も伝わります。色も辛さも、その土地の唐辛子の個性が料理の名物を形づくってきました。西インドのスパイスボックスでは、カシミリチリが色出しの常連として欠かせない一員になっています。

辛味の科学 — 辛さの正体はカプサイシン

唐辛子の辛さの正体はカプサイシンという成分です。これは果実の中でも主に種とワタ(胎座)に多く含まれているため、種を取り除くと辛さを和らげることができます。逆に、辛さをしっかり出したいときは種ごと使う、というのが使い分けの基本です。色の鮮やかさと辛さの強さは必ずしも一致せず、赤くても穏やかな品種、見た目以上に辛い品種があるのは、色素と辛味成分が別物だからです。

カプサイシンは水に溶けにくく油脂に移りやすい性質があります。だから辛すぎたときに水を飲んでもなかなか流れず、ヨーグルトや牛乳といった乳製品、油脂、砂糖のほうが体感の辛さをやわらげてくれます。なお、唐辛子は伝統的に身体を温める、食欲を促すといった文脈で語られてきましたが、ここでは健康効果を断定するものではなく、あくまで「料理の辛味と色の素材」として扱います。

レッドペッパーって、単体だと辛さがツンと尖るんですよ。でもブレンドに入れると不思議と角が取れて、料理全体がまとまる。辛さを足すというより、全体をビシッと引き締める係。少しの差で表情が変わるから、量はいつも慎重に決めています。

使い方の原則 — 少量から、形状で出方を変える

  • 少量から効かせる……唐辛子は量がそのまま辛さに直結する。基本4スパイス(ターメリック・コリアンダー・クミン・唐辛子)のなかでも、辛さの加減は好みと相手次第。迷ったら少なめに入れ、足りなければ足すのが安全。
  • ホールとパウダーを使い分ける……ホール(丸ごと)は油で熱して香ばしさと穏やかな辛味を引き出す、はじめのテンパリング向き。パウダーは辛味と色がダイレクトに出るので、量で辛さを調整したいときに便利。
  • 色と辛味を分担させる……鮮やかな赤がほしいなら色出し向きのカシミリ等を、しっかりした辛さがほしいなら辛味の強い品種を、と役割で品種を選び分けると、色と辛さを別々に調整できる。

スパイスを「色・香り・味・辛味」の四つの役割で捉える考え方は最初に揃える4種で詳しく扱っています。唐辛子はそのなかで「辛味」を一手に担う一本です。

よくある質問

  • 唐辛子とチリ、レッドペッパーは同じもの?……どれもトウガラシ属の果実を指す言葉で、料理の文脈ではほぼ同じものを指します。乾燥して粉にしたものをチリパウダーやレッドペッパーと呼ぶことが多く、パプリカやカイエンも品種や使い分けの違いです。共通するのはカプサイシンによる辛味を持つ点です。
  • 辛さを抑えて色だけ出したいときは?……カシミリチリのように、色が鮮やかで辛さの穏やかな品種を選ぶのがおすすめです。辛味成分カプサイシンは主に種とワタに多いため、種を取り除くと辛さを和らげられます。色づけと辛味づけを別の品種で分担させると調整しやすくなります。
  • 入れすぎて辛くなったらどうする?……唐辛子の辛味は水では流れにくいため、ヨーグルトや牛乳など乳製品、油脂、砂糖を加えると体感の辛さがやわらぎます。煮込み料理なら水分とトマトや玉ねぎを足して全体量を増やすのも有効です。次回は少量から試すと安全です。
  • ホール(丸ごと)とパウダーはどう使い分ける?……ホールは油で熱して香ばしさと穏やかな辛味を引き出す、はじめのテンパリングに向きます。パウダーは辛味と色がダイレクトに出るため、量で辛さを調整したいときに便利です。同じ唐辛子でも形状で出方が変わります。

もっと深く・関連

このスパイスを単体で試すなら、カシミリチリ(パウダー)から。色・香り・味・辛味の役割を、実際に手を動かして確かめられます。

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