第3部 くみたてる 3.14

代用の設計原則 — 役割が同じなら入れ替えられる

代用の設計原則 — 役割が同じなら入れ替えられる

「このスパイス、家にない」「これ、子どもがアレルギーで使えない」「お店で売り切れていた」——スパイス料理をやっていると、レシピ通りにいかない場面は必ず来ます。そのたびにレシピを諦めていたら、いつまでも作れるものが増えません。

でも、アナンの料理教室でバラッツが受講生によく返している答えは、いつも同じ型をしています。「それ、何のために入っているスパイスですか?」——つまり、足りない一品の役割さえ分かれば、その役割を別のもので埋めればいい。代用は思いつきではなく、設計でできるのです。

この記事は、4つの役割=色・香り・味・辛味 の直接の応用編です。あの記事で「カレーは4つの役割でできている」と分かったら、次は「その役割を、別のもので入れ替える」段階に進みましょう。

代用の出発点は「役割」ひとつ

代用というと、つい「似た味のもの」を探しがちです。レモングラスの代わりになる、レモングラスに似た香りのもの……と。でもそれだと、似たものが見つからない瞬間に行き詰まります。

バラッツの発想は逆です。まず、そのスパイスが料理の中で何をしているかを問う。 色なのか、香りなのか、味なのか、辛味なのか。役割が特定できれば、代用先は「同じ役割を果たせるもの」へと一気に広がります。味そのものが似ている必要はありません。

「酒かすの代用はココナッツミルクでいけます。味は全然ちがいますよね。でも、この料理で酒かすがやっているのは”コクととろみ”なんです。役割が同じなら、入れ替えられる。」 — メタ・バラッツ

味は違っても役割が同じなら入れ替えられる。これが代用フレームの核心です。酒かすとココナッツミルクは、舌で感じる味はまるで別物。でも「コクととろみを足す」という仕事の上では、ちゃんと交代がきく。だから成立するわけです。

4つの役割で「分類」してから入れ替える

anatomy では、基本の4スパイスを色(ターメリック)・香り(コリアンダー)・辛味(レッドペッパー)・味(クミン)に振り分けました。実は、この振り分けは基本の4種だけの話ではありません。

バラッツは、ブラックペッパー、カルダモン、クローブ、ローリエ、ビッグカルダモン、カシア、シナモン——こうしたスパイスも、それぞれ4つのカテゴリーのどこかに入れられる、と言います。つまり、手持ちのスパイスを役割で棚分けしておけば、同じ棚の中で入れ替えができる。 これが代用を「設計」に変える第一歩です。

香りの棚が足りないなら、香りの棚にある別のもので補う。辛味の棚なら辛味で。役割という共通の物差しがあるから、迷わずに済むのです。

香り(パウダー)はハーブでも埋められる

役割で考えると、入れ替え先は乾いたスパイスの中だけにとどまりません。

たとえばパウダースパイスが担っている「香り」は、フレッシュなハーブの香りで補うこともできます。バラッツは料理教室で「ハーブ類を入れることで、その香りをハーブで補う」と説明します。ミントが手に入らなかった受講生には、「手元にある別の香りハーブを入れればいい」——パクチーでも構わない、と答えています。

香りの棚は、乾物とハーブをまたいで一つにつながっている。そう捉えると、代用の自由度がぐっと上がります。

似た香りの仲間で代用する

「役割が同じなら味が違ってもいい」が大原則ですが、香りのスパイスについては、役割の中でもさらに”香りの系統が近いもの”を選ぶと仕上がりが安定します。

キャラウェイが家にないとき、バラッツは「クミンやフェンネル、ディルのような、ちょっと似た感じのものを入れるといい」と言います。これらはどれも、すっとした清涼感のある香りという点で系統が近い仲間。同じ「香り」の棚の中でも、近所にいるもの同士なら違和感が小さいのです。

ここでのコツは2段構え。まず役割(香り)で大きく絞り、その中で系統の近いものを選ぶ。 この順番を守れば、的外れな代用にはなりません。

辛味・酸味・旨味も役割で置き換える

代用フレームは、乾いたスパイスだけのものではありません。野菜や乳製品、酸味料といった「液体・生もの」にも、まったく同じ理屈が効きます。

  • 辛味。青唐辛子が手に入らないときは、ピーマンやシシトウといった香味野菜で代用できる、とバラッツは受講生に答えています。辛さそのものを足したいなら、辛味の棚にあるもので補えばいい。
  • 酸味と旨味。トマトとヨーグルトは、味こそ違いますが「酸味と旨味を足す」という役割が重なります。だからトマトが無ければヨーグルトへ、そのまま役割をスライドさせて置き換えられる。水で伸ばして調整することもできます。

「ヨーグルトとトマト、結構同じような役割として使えるんですよ。トマトがやっていた仕事を、ヨーグルトがそのままスライドして取っていける。」 — メタ・バラッツ

酸味の設計旨味とスパイス で扱う酸味・コクの要素も、突き詰めれば「どの役割を、どれで埋めるか」という同じ問いの上にあります。

代用を成功させる手順

実際に「これがない」となったとき、頭の中でたどる手順はこうです。

  1. その材料が、この料理で果たしている役割を一つに絞る。(色/香り/味/辛味、または酸味・旨味・コク・とろみ)
  2. 同じ役割を果たせるものを、手持ちから探す。 味が似ているかどうかは、いったん脇に置く。
  3. 香りの代用なら、役割の中でさらに系統の近いものを選ぶ。(例:キャラウェイ→クミン・フェンネル・ディル)
  4. 量で微調整する。 辛味が強すぎる・足りない、酸味が立ちすぎる——そうした差は分量で寄せる。
  5. 味の土台(塩とコク)が決まっていれば、多少の入れ替えでバランスは崩れないと信頼する。

5番目は地味ですが大事な前提です。バラッツは「味がしっかり作られていれば、いろんな素材を置き換えても、その味のバランスは割と崩れない」と言います。土台さえできていれば、代用は怖くありません。

応用 — 具材ごと入れ替えて別の一皿に

代用の考え方を一歩進めると、それはもう「アレンジ」になります。役割で組み立てられた料理は、懐が深いのです。

  • 入手難のハーブは、乾燥させて粉に。 レモングラスのように手に入りにくいハーブは、ドライにしてパウダーにしてしまえば、香りの担い手としていつでも使えます。形(フレッシュ/ドライ)が変わっても、香りという役割は変わりません。スパイスの形と香りの関係は スパイスは香り・味は塩 の考え方ともつながります。
  • キーマは「誰でもウェルカム」な土台。 バラッツが「懐が広い」と言うキーマカレーは、肉の種類もハーブも幅広く受け止めます。役割(ひき肉という具、香りのハーブ)さえ埋まっていれば、中身は自由に交代できる。
  • ナッツとハーブを替えれば、別のカレーになる。 よく使われるのが、カシューナッツをピスタチオに替える手。ナッツやハーブという「役割の枠」を保ったまま中身を入れ替えると、同じ設計図からまったく違う一皿が立ち上がります。
  • 地域の発酵食材も役割で橋渡し。 ネパールの高菜の発酵漬け(グンドルック)が手に入らないとき、バラッツは役割の近いクレソンで代える設計を見せます。土地の食材は、役割で見ればちゃんと地続きなのです。

ここまでくると、代用は「妥協」ではなく「設計の自由」だと分かります。役割という地図を持っていれば、足りないものを嘆くのではなく、手元のもので組み直せる。それが、自分のブレンドを組む 力にも、そのままつながっていきます。

まとめ

  • 代用の出発点は「似た味」ではなく 役割。色・香り・味・辛味(+酸味・旨味・コク・とろみ)のどれを埋めているかを一つに絞る。
  • 味は違っても役割が同じなら入れ替えられる(例:酒かす→ココナッツミルク=コクととろみ)。
  • 手持ちを4役割の棚で分けておけば、同じ棚の中で入れ替えできる。香りの棚は乾物とハーブをまたいでつながる。
  • 香りの代用は 役割で絞り → 系統の近いもので寄せる の2段構え(例:キャラウェイ→クミン・フェンネル・ディル)。
  • 辛味・酸味・旨味も同じ理屈(青唐辛子→ピーマン/シシトウ、トマト⇄ヨーグルト)。
  • 味の土台ができていれば、具材を入れ替えてもバランスは崩れにくい。代用は妥協ではなく設計の自由。

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