第1部 つくる 1.3
最初に揃える4種 — 色・香り・味・辛味の入口
最初に買うのはたった4種。色・香り・味・辛味のTCCRで、市販ルウから自由になる。

スパイスは世界に130〜150種あるとも言われます。棚の前で「どれから買えばいい?」と立ちすくむ——スパイス料理の最初の壁はここです。答えは拍子抜けするほどシンプルで、まず揃えるのはたった4種。ターメリック・コリアンダー・クミン・レッドペッパー。この4つが色・香り・味・辛味という別々の役割を分担し、合わさるとカレーになります。ここを起点にすれば、あとはいくらでも広げられます。
なぜ「4種」なのか — 最小セットという考え方
スパイスの世界は広く、基本のスパイスだけでも数えきれません。でも、その全部を一度に覚える必要はありません。アナンが入門の出発点として選んだのは、ターメリック・コリアンダー・クミン・レッドペッパーの4種類でした。
「最初のスパイスとして我々が選んだのが、4種類のスパイスがあります。」 — メタ・バラッツ
なぜ最初がこの4つなのか。理由は「少ないから簡単」というだけではありません。この4種が、カレーの香りと色をつくる役割をちょうど分け合っているからです。たくさんの種類をなんとなく混ぜるのではなく、役割の違うものを最小限そろえる——これが遠回りに見えていちばんの近道になります。
そして大事なのは、4種が「ゴール」ではなく「入口」だということ。バラッツはこう言います。
「まずはスタートとして基本のスパイスをベースに押さえておくと、広がりをより作りやすい。」 — メタ・バラッツ
130種の海にいきなり飛び込むのではなく、まず足場になる4つを固める。そこから一つずつ足していくほうが、結局は広い世界に出やすいのです。
4種それぞれの役割 — 色・香り・味・辛味
4つを「味付け」とひとくくりにすると、違いが見えなくなります。1つにつき役割を1つだけ覚えると、急に扱いやすくなります。
ターメリック=色
ターメリックの役割は、ひとことで言えば色です。
「このターメリックが入ることによって、カレーのどくとくのあの色になる。」 — メタ・バラッツ
あの黄色〜オレンジ色は、ターメリックが生み出しています。香りは控えめで、土っぽさと軽い苦味を持つので、入れすぎると苦くなります。役割を一つだけ覚えるなら「色」。少量で十分に働くスパイスです。
コリアンダー=香り
コリアンダーの役割は香り。爽やかで穏やかな香りが、カレー全体の香りの土台を支えます。
実は、基本4種のなかでいちばん多く使うのがコリアンダーです。
「一番量として使うのは、ターメリック小さじ1に対して、このコリアンダーが小さじ3。」 — メタ・バラッツ
ターメリックが「少量で色をつける」のに対し、コリアンダーは「たっぷり使って香りの量をかせぐ」スパイス。役割が違えば、使う量も自然に変わります。この感覚をつかむと、レシピの分量の意味が読めるようになります。
クミン=味
クミンの役割は味。4つのなかでいちばん面白い存在です。
「ターメリックは色、コリアンダーが香り、レッドペッパーが辛味。じゃあクミンは? クミンだけでじゃがいもを炒めて食べてもらうと、多くの人は”クミン味”とは言いません。”カレー味ですね”と言うんです。クミンは味ではないけれど、味になる。」 — メタ・バラッツ
「カレーらしさ」の中心にいるのがクミン。だからこそ、スパイス料理を始めるときに最初に手に取ってほしいスパイスでもあります。
「スパイスからカレーを作るとか、スパイスを使った料理を何か始めるといった時に、すごく役立つ最初のスパイス。」 — メタ・バラッツ
レッドペッパー=辛味
レッドペッパーの役割は辛味。辛さの強弱はこのスパイスでコントロールします。お店や商品によってはチリパウダーやカイエンペッパーと呼ばれることもありますが、役割は同じ「辛味担当」です。
辛さが苦手なら控えめに、好きなら多めに。辛味だけを独立して調整できるのがレッドペッパーを別に持つ利点です。子ども向けに辛さをゼロにしたいときも、このスパイスだけ抜けば、色・香り・味はそのまま残ります。
「3種」でも成り立つ — 役割で考えるとわかること
役割で整理すると、応用も見えてきます。実は、色・香り・辛味の3つだけ——ターメリック・コリアンダー・レッドペッパー——でも、立派にスパイス料理の基本になります。
「ターメリック、コリアンダー、レッドペッパー、この3種類が基本のスパイス。」 — メタ・バラッツ
クミン(味)を足すと「カレーらしさ」がぐっと増す、という足し算で考えられるわけです。これが「役割で覚える」ことの強さ。何を入れると何が変わるかが予測できるようになり、レシピを丸暗記しなくても組み立てられるようになります。
4種を起点にどう広げるか
この4種は、入門のためだけのものではありません。4種さえあれば、たいていのカレーは作れます。
「ターメリック、そしてコリアンダー、クミン、レッドペッパー、この4種類。」 これがあれば何でも作れる、というのがアナンの考え方です。
広げ方の感覚をいくつか挙げておきます(レシピの分量そのものではなく、考え方として)。
- まず4種だけで一皿作る。 役割が体でわかります。色がつき、香りが立ち、味の芯ができ、辛さが決まる——この4つの手応えを覚えるのが最初のステップ。
- 量のバランスを動かしてみる。 コリアンダーを増やせば香りが豊かに、レッドペッパーを増やせば辛く。役割ごとにツマミを回す感覚です。
- 同じ4種を別の料理に使う。 たとえば肉に4種をすり込んでマリネすれば、焼き物の下味になります。「カレーのためのスパイス」という枠を外すと、使い道は一気に広がります。
- 仕上げの香りを足す。 4種で土台ができたら、仕上げに香りの集合体であるガラムマサラなどを加えて深みを出す——という次の段階へ進めます。
「基本のスパイスを押さえておけば、様々なカレーができる」。少数の役割を握ることが、自由への入口になります。
役割の入口から、配合の設計へ
ここで覚えた色・香り・味・辛味という4つの軸は、このあとずっと使う「ものさし」になります。スパイスを足すか引くか、増やすか減らすかを迷ったとき、「これはどの役割を動かしたいのか?」と問い直せば、判断がぶれません。
4種はゴールではなく入口。役割という見取り図を手にしたら、次はそれぞれの役割をどう組み合わせ、どう配合として設計するかへ進んでいけます。
まとめ
- 最初に揃えるのはターメリック・コリアンダー・クミン・レッドペッパーの4種。
- 役割は1つずつ。ターメリック=色/コリアンダー=香り/クミン=味/レッドペッパー=辛味。
- いちばん多く使うのはコリアンダー(香り)。ターメリック(色)は少量で十分。
- レッドペッパー(辛味)は別名チリパウダー/カイエンペッパー。辛さだけ独立して調整できる。
- 色・香り・辛味の3種でも基本は成り立つ。役割で考えると足し引きが読める。
- 4種はゴールではなく入口。ここを起点に量を動かし、料理を変え、香りを足して広げていける。

