第3部 くみたてる 3.8

北と南で別の料理 — 油・酸味・玉ねぎで読むインドの様式

同じ「インド料理」でも北と南は別物。油・酸味・玉ねぎの切り方という軸で、地域の様式を読み解く。

北と南で別の料理 — 油・酸味・玉ねぎで読むインドの様式

「インド料理」とひとくくりにされますが、北と南、東と西では、使う油も、酸味のとり方も、玉ねぎの切り方まで違います。同じ「カレー」でも、土地が変われば別の料理。この章では、地域による様式の違いを、いくつかの分かりやすい軸で読み解きます。様式が見えると、自分の一皿を「どこ風にするか」を選べるようになります。

油で分かる

いちばん分かりやすいのがです。土地で穫れるものが、そのまま料理の土台になります。

  • 北インドギー(澄ましバター)。乳製品文化が厚く、こくのある重厚な味わい。
  • 東インド(ベンガルなど)マスタードオイル。ツンとした刺激と独特の香ばしさ。
  • 南・西インドココナッツオイルごま油(太白)。軽やかで、魚や野菜に合う。

デリーのギーで深く重ねたスパイス使いと、チェンナイのごま油・ココナッツ・マスタードの軽い使い方を並べると、同じ国とは思えないほど表情が違います。

北=ギー、東=マスタードオイル、南西=ココナッツ。油が地域の味の土台を決める。
北=ギー、東=マスタードオイル、南西=ココナッツ。油が地域の味の土台を決める。

酸味で分かる

次の軸は酸味。何で酸っぱさを出すかが、地域でくっきり分かれます。

  • ヨーグルト。まろやかな乳酸の酸味。
  • タマリンド。果実由来の、こくのある深い酸味。
  • 西コカム。すっきりとした独特の酸味。

同じ「酸味を足す」でも、選ぶ素材で料理の出身地が変わります。酸味は、地域の味を決める隠れた主役です。

玉ねぎの切り方で分かる

意外なところでは、玉ねぎの扱いも地域で違います。

  • みじん切り。しっかり炒めて、こっくりした甘みととろみの土台に。
  • スライス。香ばしく炒めて、軽い香りとコクを出す。
  • ペースト。なめらかに溶け込ませる。
玉ねぎは北=みじん、南=スライス、東=ペースト。同じ食材でも切り方で別の料理になる。
玉ねぎは北=みじん、南=スライス、東=ペースト。同じ食材でも切り方で別の料理になる。

常用ブレンドで分かる

その土地で毎日使われる常用ブレンドにも、地域性が出ます。東インドのパンチフォロン(5種ホールの混合)、西インドのダナジル(コリアンダー&クミン)、南インドのサンバルパウダー。台所に常備されているミックスを見れば、その家がどの様式に根ざしているかが分かります。

こうした違いは、気候や環境とも結びついています。たとえば豆ひとつとっても、北は消化に重い豆、南は軽い豆が好まれる——食べているものは、その土地の暮らしそのものなのです。

「インド料理」という一つの料理はありません。あるのは、土地ごとの暮らしから生まれた、いくつもの様式です。油・酸味・玉ねぎ——どれか一つの軸で見るだけでも、地図が見えてくる。自分の一皿を「北風に寄せるか、南風に振るか」と考えられるようになると、料理はもっと面白くなります。

メタ・バラッツ(アナン 監修)

まとめ

  • :北=ギー/東=マスタードオイル/南西=ココナッツ。
  • 酸味:北=ヨーグルト/南=タマリンド/西=コカム。
  • 玉ねぎ:北=みじん/南=スライス/東=ペースト。
  • 常用ブレンド:東=パンチフォロン/西=ダナジル/南=サンバル。気候と暮らしが様式をつくる。

相性の考え方は 相性とペアリングの原則、配合の土台は 4つの役割 へ。