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ラッサム完全ガイド|南インドの酸っぱいスープと、サンバルとの違い

ラッサムは南インドのスープのようなカレー、カレーのようなスープ。トゥールダールを煮てトマトとタマリンドで酸味を足し、仕上げにテンパリングをかける6ステップ、サンバルとの違い、梅干しの代用、15品の材料表の実数まで、南インドで育った店主がまとめた完全ガイドです。

ラッサム完全ガイド|南インドの酸っぱいスープと、サンバルとの違い

トゥールダール(キマメ) を見る →

ラッサムは、南インドの酸っぱいスープです。トゥールダール(キマメ)を煮た土台に、トマトとタマリンドの酸味、黒胡椒の辛味、そして仕上げに油で弾かせたスパイスの香ばしさ。具はほとんど入らず、さらさらしていて、最後にご飯にかけて混ぜて食べます。定食(ミールス)のテーブルの真ん中に壺で置かれ、おかわり自由の一杯です。

このページは、アナンのラッサムと、対になるサンバルに関するすべての入口です。店主のメタ・バラッツは南インドの山の上の全寮制の学校で3年間を過ごし、毎食のようにサンバルとラッサムを食べて育ちました。その記憶と、月に一度のオンライン料理教室の実技、全15品のレシピ、材料表の実数を一枚の地図にまとめました。

ラッサムとは — スープのようなカレー、カレーのようなスープ

バラッツは料理教室でこう言います。

ラッサムというのは南インドのスープのようなカレーです。カレーのようなスープです。どちらでも大事です。(バラッツ、料理教室の実況より)

noteの定義はもう少し具体的で、「トマトとタマリンドの酸味が美味しい、豆をベースとしたさらっとしたスープ状の料理」。本場のラッサムは具が入らず、ローストしたスパイスと豆の香ばしさ、塩、テンパリング、酸味。それだけで一杯が成立します。

  • サンバルとの違い……サンバルは豆と野菜をたっぷり煮込んだカレーで、南インドの味噌汁ポジション。ラッサムはその具が入っていないさらさらのスープで、サンバルよりずっと薄い。同じトゥールダール、同じテンパリングの、兄弟のような二つです。
  • 食卓での居場所……プレートには乗りません。テーブルの真ん中の壺に入っていて、お茶のような感覚で注ぎ、いろいろ食べた最後にご飯にかけて混ぜる。バラッツいわく「お茶漬けのような存在」です。
  • 酸味はタマリンド……南インドの酸味の担当はタマリンド。北はヨーグルト、東はレモン、西はコカム。この地図の南の代表がラッサムです。
  • 名前の意味……ラスはサンスクリット語で「味」、旨味が凝縮した、という褒め言葉が語源と言われます。バラッツに言わせれば、味噌汁もラッサムです。

基本の作り方 — 豆を煮て、酸味を足して、香りをかける

教科書は基本のラッサムです。鍋は二つ。豆を煮る鍋と、油にスパイスを弾かせる小さな鍋(テンパリング)。工程はその実写真です。

実数はこうです。トゥールダール50gを水1000mlでとろとろになるまで煮て(15〜30分浸水すると早い)、さいの目のトマト1個。ターメリック小さじ1、黒胡椒パウダー小さじ1/2、レッドペッパー小さじ1/2と塩。タマリンド10gをぬるま湯200mlで溶いたタマリンド水と、水500ml。テンパリングは油大さじ3にマスタードシード小さじ1、赤唐辛子2本、フェヌグリーク小さじ1/2、にんにく1かけ。豆の煮え加減は時計ではなく目と指で見ます。

だんだん芯がなくなって、ほら、縁が透明っぽくなってる。それが全体的に透明になって、手でこう簡単に潰せるぐらいになったらちょうどいいです。(バラッツ、料理教室の実況より)

豆を煮ている間はやることがありません。バラッツは「本当にやることないラッサムですから」と言って、豆を煮る工程だけ先に済ませておくことを勧めます。油の量に驚く人が多いので、これも言い切りです。

皆さんから、いつも大さじ3が多いんじゃないかというお言葉をいただくのを、見てください、これが大さじ3です。結構多いですよね。(バラッツ、料理教室の実況より)

最後に酸味で締めます。タマリンドを使わない回ではライムを絞り、「ライムが入ると油が入っていた部分をぐっとまとめる」。テンパリングの油と酸味が出会って、スープがひとつにまとまります。

香ばしさの設計 — ローストと、テンパリング

ラッサムの味の芯は酸味ですが、香りの芯は「香ばしさ」です。バラッツの言葉で言えばこうなります。

もともとラッサムはローストしたスパイスや豆、そこで香ばしさです。(バラッツ、料理教室の実況より)

香ばしさは二回作ります。一回目はロースト。黒胡椒とコリアンダーシードを小さじ1ずつ、油なしで乾煎りし、煙が出る手前、コリアンダーの色が変わり始めたら火を止めて、冷ましてから粗く挽きます。コリアンダーは本来「爽やかさ、柑橘っぽい」香りのスパイスで、ローストすると深みが出る。ラッサムは黒胡椒をピシッと効かせるとおいしいので、パンチが欲しければ黒胡椒パウダーを少し足します。

二回目はテンパリング。小鍋の油にマスタードシードを入れ、シュワシュワではなくパチパチと弾けてポップコーンのような香りが立つまで待ち、赤唐辛子、にんにくを追いかけさせて、にんにくが茶色みを帯びたところで鍋へ。唐辛子が黒くなっても気にしません(食べるわけではないので)。カレーリーフがあればここに。これは調理の途中ではなく完成してからかける仕上げの工程で、かけたあとの味は不思議と角が取れてまろやかになります。テンパリングの原理はテンパリングの解説にまとまっています。

サンバルではこのローストが「サンバルパウダー」になります。料理教室の実数は、マスタードシード、赤唐辛子3本、黒胡椒小さじ2、コリアンダーシード小さじ2、ウラドダール小さじ1、フェヌグリークシード小さじ1、カレーリーフ大さじ1を油なしで煎り、冷ましてから挽いて大さじ2を使う。豆を煎って入れるのは、香ばしさと少しのとろみのためです。

サンバルパウダーって結構ね、普通にただスパイスを入れるだけじゃなくて、一回ローストしてあるのですごい深い香りがして、美味しさがより複雑になって。(バラッツ、料理教室の実況より)

酸味の設計 — タマリンドと、梅干し

タマリンドはマメ科の植物の果肉で、少し発酵した酸味があります。塊をぬるま湯につけて揉みほぐし、種と繊維を除いたタマリンド水にして使う。目安は20〜50gに100ml前後のぬるま湯で、溶け残りは気にしません。戻し方の細部はタマリンドの食材帖へ。

手に入らなければ梅干しです。バラッツの祖母は日本に来たときタマリンドもコカムも手に入らず、梅干しと黒糖で豆のカレーを作りました。その代用は今も料理教室の定番で、サンバルなら700〜1000mlの水に2〜3個、種ごと入れて豆と一緒に煮るだけ。15品の材料表でも3品が実際に梅干し入りです。神戸で作った冷たいラッサムに刻んだ梅干しを入れたら紫蘇とも相性がよく、「移民たちの知恵が見えてきたようで嬉しくなった」とバラッツは書いています。

インド料理やカレーを作っていて締まりがないような味付けになると大体が酸味が足りなかったりする。(バラッツ、noteより)

味がバラバラなときは塩の次に酸味。逆に酸っぱすぎたら、トマトを増やす、黒糖を少し入れる、ココナッツミルクで伸ばす。ただしココナッツミルクは100ml程度まで、入れすぎると「本当にココナッツカレーになっちゃう」。酸味の考え方は酸味の設計インドの酸味文化で深く読めます。

サンバル — 豆と野菜をたっぷり、南インドの味噌汁

サンバルというのは何かというと、南インドを代表するような豆と野菜のカレーですね。(バラッツ、料理教室の実況より)

サンバルに欠かせないのは野菜と豆。豆はトゥールダールで、煮ると独特の甘い香りが立ちます。レンズ豆やムング、チャナで作る人もいますが、バラッツは「個人的にはこのトゥールダールが一番うまいと思うし、この酸味がすごく相性がいい」と言い切ります。インドではドラムスティック(モリンガの実)が必ず入っていて、硬すぎて噛めないので中身をしゃぶって外側は残す。学校の食堂で文句を言っていた思い出の野菜です。

作り方はラッサムと同じ骨格です。トゥールダールを30分浸水して水で煮る(ターメリックを入れて煮てもいい)。豆が見えてきたら水を足す。トマトを先に入れて崩し、野菜は硬いものから、あるいは一気に。夏ならナス、ピーマン、インゲン、パプリカ、オクラ、コーン。春や冬ならかぼちゃ、さつまいも、人参、大根、白菜。ターメリック、コリアンダー小さじ3、レッドペッパー小さじ1のパウダーと塩小さじ1.5(4人前)、タマリンド水か梅干し。最後に油大さじ3のテンパリング。教科書は基本のサンバル春野菜のサンバルです。

無限にサンバルが食べれるのが、みんなのインドの定食です。(バラッツ、料理教室の実況より)

バナナの葉にご飯と惣菜を盛り、サンバルをかけ、食べ終わるとバケツのような容器でまた注ぎ足しに来る。それがミールスです。イドゥリやワダ、ドーサの相方もサンバル。「チェンナイのイドゥリとサンバルは最高の朝ごはんである」がバラッツの結論で、ミールスの背景は南インドの食とミールスで読めます。

レシピ全15品 — ラッサム7品、サンバル8品

アナンのラッサムとサンバルは15品。材料表を数えるとタマリンド12品・トマト12品・トゥールダール11品で、酸味と豆の骨格が揃っています。

ラッサム — さらっと、酸っぱく、香ばしく

基本の一杯から、季節と素材の変化まで。冷たい生ラッサム(パッチパルス)は、料理教室の参加者の「冷たいカレーが食べたい」から生まれました。

サンバル — 豆と野菜を、季節ごとに

トゥールダールと季節の野菜、タマリンドか梅干し。基本の型に、りんごや椎茸、きのこの旨味を重ねた一品も。

材料の設計図 — 15品の材料表を数えてみた

15品で実際に使われている材料を数えると、ラッサムとサンバルの骨格が見えます。酸味はタマリンド12品、そのうち梅干しで代用したものが3品。ベースはトマト12品とトゥールダール11品で、ムングが4品。スパイスはレッドペッパーとターメリックが各14品、マスタードシード13品、コリアンダー11品、クミン9品、カレーリーフ9品、黒胡椒7品。テンパリングの相棒はにんにく10品で、玉ねぎは6品にとどまります。ヒングとフェヌグリークは各4品、黒糖は2品。ココナッツは0品。アナンのラッサムとサンバルはココナッツに頼らない、と実数が言っています。

ラッサムの物語 — テーブルの上の救世主

バラッツが3年間を過ごしたのは、タミルナドゥ州ニルギリ、標高2000mの山の上にあるキリスト系の全寮制の学校でした。昼は15分、夜は20分の制限時間で、米が主食、ほとんどが豆と野菜のカレー。サンバルにポリヤル、アチャールにチャツネ。苦手だったポリヤルの苦味を消すために編み出したのが、テーブルにいつも置いてあるラッサムを仕上げにかけて全部混ぜてしまう食べ方でした。

テーブルの上のラッサムスープには救われたものである。(バラッツ、noteより)

ラッサムの生まれについて、バラッツが料理教室で語る伝説があります。サンバルが名物の寺で、ある日大勢の客が来てサンバルが尽きた。鍋の底に残った汁にスパイスと塩と水を足して伸ばしたスープを出したら、客が「ラッサ(旨い)」と褒めた。それ以来そのスープはラッサムと呼ばれるようになった、と言われます。バラッツの締めはこうです。「嘘か本当かは誰も知らない、ある日の話ですね」。サンバルの汁からラッサムが生まれたという話の構造だけは、二つの料理の関係をよく言い当てています。

このシリーズの完全ガイド: ビリヤニキーマカレーチャイアチャールタンドリーチキンバターチキンダールサブジもどうぞ。

よくある質問

Q.ラッサムとはどんな料理?
A.南インドの、スープのようなカレーです。トゥールダール(キマメ)を煮た土台にトマトとタマリンドの酸味、黒胡椒の辛味、仕上げに油で弾かせたスパイスの香ばしさ。具はほとんど入らずさらさらで、最後にご飯にかけて混ぜて食べます。
Q.ラッサムとサンバルの違いは?
A.サンバルは豆と野菜をたっぷり煮込んだカレーで、南インドの味噌汁のような毎日の一品。ラッサムはその具が入っていない薄いスープです。どちらもトゥールダールを使い、タマリンドの酸味で締め、最後にテンパリングをかける、同じ骨格の兄弟です。
Q.ラッサムはスープとして飲む?ご飯にかける?
A.両方です。定食(ミールス)ではテーブルの真ん中に壺で置かれ、お茶のような感覚で注いで飲み、いろいろ食べた最後にご飯にかけて混ぜます。バラッツはこれを「お茶漬けのような存在」と呼びます。
Q.タマリンドがありません。
A.梅干しで代用できます。バラッツの祖母が日本で使い始めた方法で、700〜1000mlの水に2〜3個、種ごと豆と一緒に煮るだけ。アナンのレシピにも梅干し版が3品あります。仕上げならライムやレモンを絞っても酸味の役目を果たします。
Q.味がぼんやりします。
A.まず塩を疑ってください。スパイスは香りで、味は塩で作ります。塩が足りていて全体がバラバラなら酸味不足で、タマリンド水か梅干し、仕上げのライムでぐっと締まります。
Q.トゥールダール以外の豆で作れますか?
A.レンズ豆、ムングダール、チャナダールでも作れます。ただ煮ると独特の甘い香りが立つのはトゥールダールだけで、バラッツはこの豆が酸味といちばん相性がいいと言い切ります。まずはトゥールダールで。
Q.酸っぱすぎ、辛すぎになりました。
A.酸っぱいときはトマトを増やす、黒糖を少し入れる、ココナッツミルクで伸ばす(100ml程度まで、入れすぎるとココナッツカレーになります)。辛いときは青唐辛子の種を抜くか量を減らし、黒糖で角を取ります。
Q.サンバルの野菜は何でもいい?
A.何でも入ります。夏ならナス、ピーマン、インゲン、パプリカ、オクラ、コーン。冬ならかぼちゃ、さつまいも、人参、大根、白菜。冷蔵庫の余り野菜でも構いません。インドでは硬いドラムスティック(モリンガの実)が定番で、中身だけしゃぶって外側は残します。
Q.何と合わせて食べますか?
A.ご飯が基本で、ラッサムは最後にかけて混ぜる一杯。サンバルはご飯のほか、イドゥリやワダ、ドーサの相方です。豆と野菜のサンバルは煮込むほどおいしくなり、冷やして食べてもおいしいので、多めに作って翌日にも回せます。

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