完全ガイド
キーマカレー完全ガイド — 基本の作り方と、全35レシピ
キーマはペルシャ語由来の「ひき肉」。言葉の来歴から、料理教室で繰り返し語られてきたコツ、全35レシピまで。日本で一番知られているインド料理の完全ガイドです。

キーマカレーの「キーマ」は、ひき肉のこと。もとを辿ればペルシャ語に由来する言葉で、qeema・kheema。ヤギなどのひき肉を使った料理を指していました。それがインドへ渡り、日本へ渡り、いまやカレーパンの中身から家庭の定番まで、日本語として暮らしに根づいたインドの言葉です。
このページは、1954年から続く鎌倉のスパイス商・アナンの「キーマのすべて」です。店主のメタ・バラッツは月に一度のオンライン料理教室を開いていて、キーマカレーだけでも12回テーマにしてきました。そこで繰り返し語られてきた実技のコツと、言葉の来歴、そして全35品のレシピを、一枚の地図にまとめました。
キーマカレーとは — ペルシャから来て、日本語になった言葉
キーマの旅路は長いものです。インド亜大陸は三方を海に、北をヒマラヤに囲まれ、陸の入り口は北西だけ。その唯一の玄関から、ペルシャ語を話す人々が幾度も入り、ひき肉料理「キーマ」も一緒に旅をしてきたと言われます。だからキーマは北インドの色が濃い料理で、ガラムマサラやカスリメティ、ヨーグルトを使う組み立てはその名残です。そして本場のひき肉は、宗教上の理由から豚や牛ではなく、ヤギ・マトン・鶏が中心でした。
日本に渡ったキーマは、ライスカレーと出会って独自の進化を始めます。店主のバラッツはnoteにこう書いています。
バターチキンカレーやタンドリーチキンにナンにサモサなど様々な有名なインド料理があるが、日本で一番知られているインド料理は「キーマカレー」であろう。肉に限らず魚や野菜などでもキーマカレーは作られるようになり、独特のキーマ文化が発展しているようにも感じる。
カレーパンの具として、お弁当の常備菜として、魚や野菜のキーマとして。この「日本のキーマ文化」の実践が、下に並ぶ35のレシピです。
- キーマとドライは別の話……キーマは「ひき肉」、ドライは「水分の少ない状態」。ひき肉が入っていれば、汁気たっぷりでも立派なキーマカレーです。水分は好みで設計するもの(後述)。
- マタル(グリーンピース)は古典……インドでキーマの相棒といえば豆。キーママタルはその代表格です。
- 和の食材と相性抜群……出汁や山椒、シラスとの組み合わせはキーマならでは。日本のスパイスカレー文化がいちばん豊かに花開くジャンルです。
基本の作り方 — 7ステップと「筋トレコース」
教科書は基本のナスとひき肉キーマカレー。以下はその実際の工程です。カレーの基本形(一皿の工程地図)と同じ骨格で、煮込みが短いぶん速い。それがキーマです。
料理教室で毎回いちばん熱がこもるのが、ステップ4のひき肉炒めです。ひき肉は普通のカット肉より表面積が圧倒的に多いので、ここでしっかり火を入れるかどうかで全部が決まります。生焼けのままトマトを入れて煮込むと、肉が寄り集まって団子になりがち。「もう食べられるくらい」までパラリと炒め切ってから先へ進んでください。
ここは皆さん、筋トレコースで、しっかりと炒めてください。ここは我慢です。この後は楽です。ここだけ頑張っていただければ。(バラッツ、料理教室の実況より)
もうひとつの背骨は香りの三層構造です。①最初の油にホールスパイスで「土台の香り」、②玉ねぎ・にんにく生姜のあとにパウダーと塩で「中心の香り=味」、③火を止める前にガラムマサラや山椒、フレッシュハーブで「仕上げの香り」。分量の定番は4人前でひき肉500g・塩小さじ1.5。物足りないと感じたら、スパイスではなくまず塩です(香りと塩の原理)。
ひき肉の選び方 — 肉が変われば、設計が変わる
「どのひき肉がいいですか」は、料理教室でいちばん多い質問のひとつ。答えは「作りたい味の方向とセット」です。
- 鶏……あっさり軽く、爽やか系の設計と好相性。山椒・ミント・レモンを合わせるなら鶏がいちばん合います。もも・むね半々にすると軽さとコクのバランスが取れます。
- 豚……コクと甘み。春キャベツやシラスのような甘み・旨味系の具と組むとお互いを持ち上げます。
- 牛・合いびき……力強い味。深み系のホールスパイス(シナモン・クローブ)で土台を厚くして受け止めます。
- ラム・マトン……一気に本場の風格。特にクミンとの相性は抜群です。臭みが気になるときは青唐辛子を1本増やすのがインド流。
水分の設計 — ドライは「最初から」作る
キーマカレーの水分量は、正解がひとつではなく好みで設計するものです。ただし原則が2つあります。
- ドライにするなら水と塩を最初から減らす……水200mlを100mlにすればドライキーマになりますが、塩はそのままだと濃すぎます。後から煮詰めて水分を飛ばすと塩だけが残るので、ドライは「煮詰めて作る」のではなく「最初から設計する」のがコツです。
- 水分がないのが正解ではない……仕上がりの合図は「油が少し浮いて、トマトの水分と分離してくる」状態。火を止めて5分置くと、散らばっていた味が全体にまとまります。翌日は具に味が入ってさらに美味しく、お弁当に最適です。
どのキーマから作る? — 全35レシピ
アナンのキーマカレーは全部で35品。せっかくなので全部並べます。どれも上の7ステップの応用で作れるので、素材と気分で選んでください。
まずは定番





和風のキーマ — 出汁と香りの日本流






野菜たっぷり







肉を替える
ハーブと香りで遊ぶ
甘みと遊ぶ変わり種
魚介と豆で — キーマ文化の実験





子どもと一緒に
キーマのスパイス — 35品の材料表を数えてみた
上の35品のレシピで、実際に何がどれだけ使われているかを数えてみました。土台はやはり基本4種。ターメリックが25品、コリアンダーが23品、チリが22品、クミンが21品。この4つがあれば、棚のほとんどのキーマが作れます。その上に乗る「仕上げと深みの層」はこうです。
- ガラムマサラ(16品)……仕上げ役では最頻出。「ガラム=熱い」、シナモン・カルダモン・クローブなどをローストして挽いた、カレーに深みを与えるブレンドです。ひき肉は香りをよく吸うので、火を止める前のひと振りがよく効きます。自作するなら: ロースト後は粗熱を取ってから挽く、基本スパイス主体で配合するとカレー粉になってしまうので深み系で組む、がバラッツ直伝のコツ。
- ホールの深み組(カルダモン17品・クローブ13品)……最初の油に入れて土台を厚くする組。牛やラムの力強さ、ゴーヤの苦味を受け止めたいときに登場します。
- カスリメティ(10品)……毎回の顔ではありませんが、北インド寄りの本格に振りたいときの決め手。トマトとヨーグルトの酸味、乳製品のコクと好相性で、仕上げに揉んで振ります(図鑑)。
変化球はチャートマサラ(登場は35品中4品だけ)。ムンバイの屋台風に寄せたいときに、仕上げにひと振りすると酸味が一皿に躍動感を生みます。基本の配合には不要なので、2皿目以降のお楽しみに。






食べ方 — 意外なおすすめ、目玉焼き
最後に、食べ方の提案をひとつ。キーマカレーの仕上げに、目玉焼きを落とす。「ひき肉に目玉焼き」はガパオライスでお馴染みの組み合わせですが、キーマカレーでやっている人は案外少ないはず。そして実はこれ、思いつきのアレンジではなく、本場に系譜のあるスタイルです。ペルシャからインドへ渡ったゾロアスター教徒の人々が西インドで開いた「イラニカフェ」。100年続く店もあるその名物が、キーマカレーにちぎりパンかトースト、そして目玉焼きという一皿でした。
家で落とすときのコツはひとつ、煮込みの仕上げに卵を直接割り落としたら、蓋をしないこと。蓋をすると黄身の表面が白く曇ります。浮いてきた旨味の油で火を入れれば、黄色い黄身が誇らしく残る。バラッツの自己記録は一皿に8個。ほかにも、翌日のカレーパンやサンドイッチの具、お弁当と、キーマは「二日目からの展開」がいちばん豊かなカレーです。
最短で本格を — キーマカレーキット
「まず一度、完成形を」なら、スパイスとレシピを束ねたキットが近道です。お子さんと作るなら、辛くない配合のこどもカレーブックを。
付け合わせ — キーマの食卓を完成させる
よくある質問
- キーマカレーとはどんなカレー?……ひき肉で作るカレーの総称です。「キーマ」はペルシャ語に由来する、ひき肉を意味するインドの言葉。本場では宗教上の理由からヤギ・マトン・鶏のひき肉が中心で、日本では肉の種類を問わず、魚や野菜のキーマまで独自の文化が育っています。
- ドライキーマと普通のキーマの違いは?……水分量の違いです。キーマは「ひき肉」のことなので、汁気があってもなくてもキーマカレー。ドライにしたい場合は水を半分に減らし、塩も一緒に減らすのがコツです(煮詰めて作ると塩辛くなります)。
- ひき肉はどれを使えばいい?……作りたい味で選びます。爽やか系(山椒・レモン・ハーブ)なら鶏、甘み・旨味系なら豚、力強くするなら牛や合いびき、本場の風格ならラムやマトン(クミンと相性抜群)。脂の多いひき肉ほど旨味が出やすい傾向があります。
- 肉が団子状に固まってしまいます。……炒めが足りないサインです。ひき肉は表面積が大きいので、トマトなど水分を入れる前に「もう食べられるくらい」までしっかり炒めてパラリとさせてください。ここさえ頑張れば、あとは煮込むだけです。
- 辛すぎた時はどうすれば?……水で薄めると味がぼけるので、溶いたヨーグルトを加えて軽く火を通すのがおすすめです。コリアンダーパウダーにも辛さを和らげる働きがあります。ヨーグルトと刻み野菜のライタを添えるのも本場流の解決策です。
- 保存はできる?……冷蔵で2〜3日、冷凍で約1ヶ月が目安です。火を止めて少し置く、翌日に持ち越す。キーマは時間が経つほど具に味が入るカレーなので、作り置きやお弁当にいちばん向いています。
- 何を合わせれば献立になる?……ターメリックライスやチャパティを主食に、ライタとサブジを添えれば食卓が完成します。意外に思えるかもしれませんが、仕上げに目玉焼きを落とすのは本場・西インドのイラニカフェに系譜のあるおすすめの食べ方。パンに合わせるのも本場のスタイルです。

























